2018年6月11日アルコールパラダイスに記事が掲載されました!

「日本酒のテロワール」ってありか?

日本酒のテロワールって?

「テロワール」という謎めいた言葉はその地に酔ってみたい願望のようなニュアンスであり、「オール〇〇(産地)」、米を生産していればドメーヌのほうがしっくりいく。

テロワールとは「土壌のこと。また特にワイン用のブドウなどの産地の耕作環境に関するあらゆる特性のこと。気候や地形のほか生産者の人的要因・・・」
「ワインの味わいの決め手になる、ブドウ畑のある土地の性質。一般にブドウ畑の土壌、地勢、気候、人的要因などにより総合的に形成・・・」—辞書検索より

それがフランス語であることからもワインの世界から派生したと連想できる。
ワインの味わいの大部分を占めるブドウという果実において「移動」という手段は傷みやすく、劣化も進むのでワイン生産者にとってはその移動を極力避けたいのが本音だろう。


日本酒の場合はどうだろうか?

新潟で「幻の酒プロジェクト」なるものが立ち上がり地元の水、米は酒米ではなく食用米のコシヒカリを使い新潟テロワールと名打って新潟の三蔵が賛同している。
しかしこれは企画者が蔵に依頼して実現したものであり、商売の匂いがプンプンする。
神秘的なニュアンスもあるテロワールがただビジネスのネタとして使われるのに違和感すら覚える。

いい原料だけでは作れない日本酒


まず日本酒の8割は水である。酒造りには清掃、洗浄がとても大切なことからも大量の水を使用するがほぼ蔵付近の地下水、もしくは水道水である。
これを他地域から移動させて持ってくることはかなりの労力、時間を要する。(一部の蔵では付加価値を付けるため、水道水より安価であるからという理由でやっているが・・・)
これをもってテロワールと言うのはあまりにも浅い。

ご存知の通り原料となる米は穀物であり、「移動」させることは原料劣化の観点からいくとほぼ問題無いと言えよう。
又日本酒の製造工程は極めて複雑で「技術によって作られる酒」であり、その米の良し悪しですべて決まるとはとても思えない。
ワインは前述の通り、ブドウ果汁がかなりのウェイトを占めるのでその地、その地のブドウで作ったワインが良しとされる文化が根付いたはずだ。

日本一の酒米と言われる兵庫県産特A地区(加東市、三木市)の山田錦をテロワールと呼んだら兵庫の酒蔵しか称賛をあびないことになってしまう。

もし筆者がフランス・ブルゴーニュの至宝ロマネ・コンティのピノ・ノワールでワインを作れば750mlボトル1本100万円の価値は無いにしても1万円のそれは出来るかもしれない。
しかし兵庫県産特A地区山田錦で日本酒を作ったらおそらく価値は0円だろう。
誤解しないで欲しいがワイン生産が簡単で日本酒生産が難しいを言っているのではなく、それだけブドウの良し悪しで決まるワインと米だけでは無い技術の日本酒の違いなのである。

日本酒蔵のドメーヌ化


昨今、日本酒蔵のドメーヌ化が進んでいるがこれは欲しい米が入手出来ないから自分たちで米も作ろうがスタートだろう。ドメーヌとはブドウ畑を所有し、栽培、醸造、熟成、瓶詰を自分たちで行う生産者のことなので日本酒蔵だと田んぼを所有、もしくは借りてということになる。

前述の兵庫県産特A地区山田錦をどこの酒蔵でも買えるわけではありません。量も限られていて、高価であり、過去の実績やその研究会に属しているなどが満たされないと無理なのである。
この米に限らず、酒蔵は欲しい米を入手出来ればドメーヌ化にする必要は元々、無かったはずだ。
ある広島の酒蔵はこう言う。「餅は餅屋ですよ。我々は日本酒作りのプロ。米作りは農家には勝てないと」この蔵は欲しい米を必要量確保出来ているからこその発言だがその農家の減少のスピードが加速しており、酒蔵にとっては喫緊の課題である。
又海外輸出の好調さからもドメーヌのほうがウケはいいだろう。
米も地元米を使用している蔵が多くなったが理由の一つは「安価」であることだ。
これをそれなりの価格設定で販売している酒蔵は「儲けたな」と苦笑してしまう。
これもやり過ぎと言っているわけではない、筆者は1,800ml 4,000円、720ml 2,000円推進論者であるから。

ある福島の酒蔵では「オール地元(人、水、米)」をうたい、酒造りをしている。「オール地元」でこの村を元気にするんだと20代の蔵元から聞いたとき、感動すら覚えた。

これをテロワールと呼んではしっくりこない。

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